ばらいろのウェブログ(その3)

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エズラさん、現時点での収監は免れた模様

 支援団体から来たメールによれば、エズラさんの裁判が8/16に行われ、2万人以上の人が署名した国際署名が裁判所に提出され受理されました。裁判では、6人がエズラさんの側にたった証言をしました。エズラさんは最大で18ヶ月の収監の可能性があったらしいのですが、結局この日は判決の言い渡しはなく、エズラさんは収監されていないと思われます。イスラエルの裁判の仕組みはよく分かりませんが、どうも様々な運動と国際的な圧力の中で、裁判所は判決文の言い渡しを延期したのかな?9月21日に判決言い渡しが予定されていると、支援団体から来たメールには書いてありました。
 私がエルサレム地裁で国外退去処分の取り消しを求めた裁判をしていた時も、「次の裁判で判決が出る」と言われていて、実際に行ってみると実際はちょっとやりとりをするだけで判決が出ず、何度も「では次回に」と待たされました。そういう感じなんだと思います。
 とりあえず現時点で収監を免れたことは、喜びたいと思います。
 なお、国際署名は現在は終了しています。


 そしてここからがもっと大事なのですが、エズラさんに対して現在イスラエル国家がしていることは、イスラエルの占領に反対する抵抗運動への嫌がらせのごく一部でしかかりません。
 言い換えると、エズラさんは、極めて恵まれている立場にいます。エズラさんの逮捕と裁判は、これだけ世界中で騒がれ、2万人もの支援の国際署名が集まりました。イスラエルの新聞や米国の新聞でも取り上げられ、こうやって日本でも署名したりする人もいます。
 しかし、パレスチナ人たちは、今日も、エズラさんよりも確実に悪い状況下に置かれています。国際署名が集まる訳でもなく、裁判さえも受けられずに、逮捕拘束されているパレスチナ人は一体どれほどいるでしょうか。
 以下、裁判を報告する支援団体からのメールの抜粋です。

エズラの裁判は、イスラエルの占領に反対する非暴力の抵抗運動を標的にした嫌がらせ行為の、より大きいパターンの一部です。パレスチナ人の非暴力活動家たちは、エズラよりもかなり悪い状況に置かれています。私たちは、ビリン村でパレスチナ人の非暴力活動家がこの前逮捕されたことを思い出します。壁と入植地に反対するビリン人民委員会のリーダーであるMohammed al-Khatib と Adib Abu Rahmaと共に、18人のパレスチナ人活動家が、今日も、軍刑務所に入れられています。彼らには保釈はなく、もしくは彼らが非暴力デモを止めるのならという条件下においてのみ保釈が認められます。その他にも、例えばバッサム・アブ・ラフメさん(Bassem Ahmed Ibrahim Abu Rahma)は、非暴力の抵抗運動をしていたおかげで、命を奪われました。去年の4月ビリン村で、彼は至近距離から新型催涙ガス弾を直接受けて殺されました。


Ezra's case is part of a larger pattern of harassment targeting nonviolent resistance against the Israeli occupation. Palestinian nonviolent activists fare considerably worse than him. We recall the recent arrests of Palestinian nonviolent activists in the town of Bil'in. Eighteen Palestinian activists remain in military prison today, together with the two leaders of the the Bil'in Popular Committee Against the Wall and Settlements: Mohammed al-Khatib and Adib Abu Rahma. They sit in military jails without bail-or are offered bail only under condition that they cease their nonviolent demonstrations. Others, such as Bassem Ahmed Ibrahim Abu Rahma, have paid for their nonviolent protests with their lives. Last April, he was killed in Bilin by a high velocity tear gas fired directly at him at close distance.

 ここで言及されているビリン村で殺されたバッサム・アブ・ラフメさんについては、以下にページがあります。


■彼の名前はバッセム(Bilin's Popular Committee)
http://www.bilin-village.org/english/articles/different-look/His-name-was-Basem

■非暴力デモでひとりが殺された@ビリーン村
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200904200057.htm



 実は、不当に逮捕され、拘束されている人は、パレスチナには本当に沢山います。特にパレスチナ人は、本当に何もしていなくても、簡単に逮捕され、極めて条件の悪い刑務所に、裁判もなく放り込まれます。また、本当に簡単に殺され、そして「不幸な事故」の扱いになります。たまたま外国人(パレスチナ人以外)が逮捕されたりケガをしたり殺されたりすると、メディアにも報道されますが、パレスチナ人が同じ目にあっても、世界はほとんど関心を示しません。私自身が逮捕された時に一番強く思ったことが、この「誰が逮捕されたかによって違う世界の態度*1」です。私は確かに不当に逮捕されましたが、しかしそれでもなお、明らかに特権階級でした。私がイスラエルで拘留されていた時に日本の川口外務大臣イスラエルをたまたま訪問したんですが、その時に川口大臣にあてて書いた手紙にも、自分の受けた不当逮捕のことを書く気になれず、私よりも確実にひどい状況に置かれているパレスチナの人々のことを書いたのは、そういう事情を知ってしまったからなのです。
 にもかかわらず今回、私がエズラさんの情報を日本語で私のブログに書こうと思ったのは、幾つか理由がありました。一つは、エズラさんがゲイで、私たちが映画祭で上映した映画にも出てきた人であったということ(イスラエルで同性愛者を狙った殺人事件があったのはついこの前です)。そして、エズラさんが主として支援していた人達が、パレスチナ社会の中の多数派ではなく、マイノリティー(少数派)であるベドウィンであったということ(私の友人が以前言っていた「パレスチナ人によって差別されている人々」というのは、おそらくベドウィンではないかと今は思っています)。エズラさん自身がミズラヒムという、ユダヤ人の中のマイノリティーであったということ。そして、映画で見たエズラさんの対話的な態度には共感が出来たから、です。
 パレスチナ支援運動というと、「イスラエルによるパレスチナへの侵略・占領」という「分かりやすい絵」を描くことが多いし、またそれは、実際にものごとを社会に訴えるためにはやむを得ないという面があるのも事実です。しかし実はパレスチナ社会の内部にも多数派/少数派の問題もあります。また、どうしても「パレスチナ人」を一枚岩のものとして描写しがちで、パレスチナ社会の内部の多様性は不可視化されがちです。また、被害者側であるパレスチナを美化してしまうことも、決して少なくないとも感じています。しかし、「分かりやすい絵」を描くことは、実はマイノリティー内部のマジョリティー(例えば、パレスチナに生まれ育った性別違和のない異性愛男性や、異性愛主義と女性蔑視を含む文化と社会権力のあり方)を支持支援することに結果としてはどうしてもなってしまう面があるので、そういうことにいつも躊躇するのが私の常でした。
 エズラさんは*2あんまりそういう意味では主流派ではない感じがしたので、私も署名したり在日イスラエル大使館にメールしたり、してみることにしたんです。
 これからも、エズラさんのことのみではなく、パレスチナで起きている問題を一緒に考えていって貰えれば、うれしいです。

*1:日本政府が国策として在日朝鮮人への差別を行っているにもかかわらず、それを見て見ぬふりをする「私たち」善意の日本人にも、同じ嫌悪感を強く覚えます

*2:男性として持っている特権にどれくらい自覚的かは分かりませんが