ばらいろのウェブログ(その3)

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「イラクー狼の谷ー」

 見たくないから、見ないで済ましているもの。それを、敢えて目の前に突きつけられた感じです。
 「Bar際」で城川さんが言っていた「イラクー狼の谷ーDVDもあります)」は、いまイラクで米軍がやっていることを描いたドラマ。ドキュメンタリーではさすがに撮ることができない場面を、ドラマだからちゃんと描いている。ドラマだから、厳密には史実ではないし、明らかにトルコをよく描いていたり(主人公のトルコの元情報部員のかっこいいこと!)、クルドを悪く描いていたり、結局男女関係を映画のオチにするあたりが異性愛主義的だったりと、真面目に批判をすればきりがないのは事実だと思います。でも、このドラマに込められた意図は、しっかりと伝わってきた。
 日常生活の中に占領者・支配者として米軍がいること、圧倒的な軍事力の中でどれほどの無茶が行われているか、そういう状況の中で「闘う」とはどういう事なのか。「米軍と同じ事をしてはいけない、それではあいつらと同じになってしまう」という、監督の強い意志が感じられました。イラクアブグレイブ刑務所で行われていた拷問の写真を見た時の衝撃など「忘れたことにして」毎日を送っている私に、「今でもアブグレイブが日常的に続いている人達」のことを、強引に思い出させてくれました。
 ネットとかメジャー系の評論を見ると、この映画がまるで「反米映画」であるかのように言っている人が多いけど、そういう印象は全く持ちませんでした。そうではなく、実際に米軍がやっていることを描いているに過ぎない。日米欧のメディアではごくたまにしか流れない、そのため「ないこと」になっている(不可視化されている)、でも実際に起きている現実を、アラブの人達の実感に基づいて描いている映画だと思いました
 例えばクルドの描き方など、ちゃんと検討するのならいろいろと問題はあるかもしれない。でも少なくとも、これを見て「反米映画」だと言う人は、米国のしていることを本当に知らないか、もしくは見て見ぬふりをしているか、もしくは本当に人種差別主義者なんだと思います。
 ちなみにこの映画を見たのは、ちょうど届いた「あなたがもし奴隷だったら…」を見た数時間後でした。絵本の6ページに掲載の絵が私には一番強烈で、「何百万人ものアフリカ人が、奴隷としてアフリカから運ばれました」と言葉で分かった風に言うのとは段違いの迫力でした。
 関西クィア映画祭でも、映画祭本番で上映する作品はほんの一部でしかなく、上映作品以外にも膨大な数の作品の試写をします。昨年度で言うなら、例えば刑務所の中トランスジェンダーの人達がどういう目にあっているかを描いたドキュメンタリー「CRUEL AND UNUSUAL」等も候補には挙がったのですが、本当に現実を描いて見せつける作品は、厳しいです。辛いです。「この作品は『現実を見よう』シリーズだね」と当時言い合って、結局、辛い話はこれ以上見たくないということで、この作品は上映しなかったのです。


あなたがもし奴隷だったら…
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