ばらいろのウェブログ(その3)

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大学は勝手に警察に通報してはならない

京都教育大学・集団準強姦事件)


 京都教育大学の集団準強姦事件について、少し気になっていることがあります。それは、大学が事件のことを警察に通報しなかったことについてです。
 末尾に引用するように、マスメディアや文部科学大臣は、被害を訴えている人本人の意志と関わりなく警察に通報することを当然視する主張を繰り広げています。しかし、もし「私たち」が本当に被害者やサバイバーを支援する立場に立つのであれば、「大学が警察に通報しなかったこと」を無前提に非難することは、不適切ではないでしょうか。
 そう考える理由は以下の通りです。


1)私も全ての記事を読んでいる訳ではありませんが、読んだ限りでは、大学が警察に通報しなかった主な理由は、被害を名乗り出た人のことを思ってではなく、加害者とされている人に対する「教育的配慮」からのことだという印象を持ちます。ですので、警察に通報しなかった京都教育大学のことを、サバイバー支援の観点から褒めたり弁護したい訳では全くありません。*1


2)ここでは「集団準強姦」があったと仮定します。そして、被害者が被害を大学に相談したとします。
 もしその事実が、被害を訴える本人の意向とは関係無しに、もしくは事前に本人に許可を得ることなく、大学の独自の判断で警察に通報されるとしたら、どうでしょう。もしそのようなことが有り得るのだとしたら、被害者が安心して大学に相談することが出来なくなってしまいます
 実際に性的な暴力の被害を受けた人から相談された時に、被害者本人の意向に関わりなく勝手に警察に通報することは、してはいけないことです。特にそれが相談窓口であるのなら、「相談者の秘密を守る」ということは、最も大切なルールなのではないでしょうか。


3)集団準強姦罪親告罪ではないことは私も知っています。事件としても重大なことだと私も思うので、周りで見ていた人や他の誰かが勝手に通報するようなことは(その是非はともかく)有り得ることでしょう。しかし、被害者から相談を受けた人は(特に相談窓口は)絶対に本人の意向を無視して通報してはいけないと思うのです。
国立大学法人の教員は今は公務員ではないので、法的な通報義務はないと思うのかだけど、どうなんでしょうか。よく知らないので、その辺は知りたいです)


4)私は、京都教育大学が今回通報しなかったことそれ自体を擁護したいのではありません。そうではなく、「大学が被害者に相談を受け、そこで犯罪があったことが分かった時は【被害者本人の意向に無関係に】必ず警察に通報すべきだ」というマスメディアや文部科学大臣の主張には、もし本当にサバイバーを支援するという立場に立つなら、ちゃんと反対し批判することが必要なのではないか、ということです。まして、それらと一緒になって「通報しなかった大学は悪い」とか言うのは、サバイバー支援の立場に立つなら、すべきではないと思います。



 文部科学大臣やメディアの論調に対して、サバイバー支援の立場からの批判(勝手に通報してはいけない)が全く出ていない印象を持ったので、書いてみました。
 皆さんのご意見を聞かせてもらえると嬉しいです。



NHK関西のニュース(2009/6/2)


文科相 京都教育大対応は問題


塩谷文部科学大臣は、閣議のあとの記者会見で、京都教育大学の学生6人が、酒に酔った女子学生を集団で乱暴したとして逮捕された事件で、「教育的配慮」として警察に通報していなかった大学の対応は「たいへん問題だ」と批判しました。

この事件は、京都教育大学の学生6人が、ことし2月、京都市内の居酒屋で、酒に酔って抵抗ができない状態の女子学生を、集団で乱暴した疑いで逮捕されたもので、大学側は、女性から相談を受けたにもかかわらず、「教育的配慮」として警察に通報していませんでした。
これについて、塩谷文部科学大臣は、記者会見で、「教員養成が使命の大学で、こういう事件が起きたことは、まことに遺憾で驚いている。警察へ通報していなかったのは、たいへん問題だ。訴えがあったら、いち早く警察に知らせて、捜査につなげることが大事だ」と述べ、大学の対応を批判しました。また、塩谷文部科学大臣は、大学が、女性からの相談を受けて、独自に調査した結果を明らかにしていないことについて、「きのうの段階で、調査結果を明確にしなかったのは疑問だ。大学側の真意をしっかり調査して、文部科学省として指導しなければならない」と述べました。

「集団暴行事件 繰り返す大学生の蛮行」@東京新聞社説


2009年6月4日


 事件後、大学がとった対応には首をかしげざるを得ない。六人を無期停学処分としたが、警察に通報していない。京都府警が動いたのは被害者が告訴したからだ。
 寺田光世学長は会見で「学内調査では『公然わいせつ』と認識した」と説明、警察に通報しなかったことには「教育的配慮を優先した」という理由を繰り返した。
 「公然わいせつ」としたことが理解できない。「集団準強姦」と認めたなら警察に通報しなければならない。「公然わいせつ」にすれば通報の必要はなく、公にならないと思ったのだろうか。
 「教育的配慮」という理由も理解に苦しむ。最も配慮すべきは被害者の人権であり、事実をうやむやにすることではない。
 被害者の気持ちを思えば、被害者に代わって事実関係を調査し、加害者側に社会的責任を求めていくことが大学の務めではなかったか。この大学の幹部は大学の体面ばかりを「配慮」していたとしか思えない。

<集団準強姦>京都教育大、通報せず(Yahoo!ニュース)


6月1日22時8分配信 毎日新聞


 京都市内の居酒屋で今年2月、酒に酔った女性に集団で性的暴行を加えたとして、学生6人が集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕された京都教育大は、被害者の母親の相談を受けた後も京都府警へ通報せずに調査を進め、関係者を内々に処分していた。親告罪ではない上、口裏合わせなどの恐れもあっただけに、捜査関係者は「なぜ、すぐに通報しなかったのか」と憤っている。

 女子学生の母親から3月3日に相談を受けた大学は6人を無期限の停学処分とし、見ていたのに止めなかったとして数人を訓告にした。うち1人は卒業している。府警が母親からの通報で事件を知ったのは同27日だった。

 寺田光世学長は1日、京都市伏見区の大学で謝罪会見した。6人を処分しながら非公表にした理由を「学生に対する教育的配慮」とし、「捜査を混乱させるから」とも述べた。

 大学によると、コンパ終了後、女子学生に4人が性的行為をし、残り2人もわいせつ行為に及んだという。

 だが、学内調査結果の詳細については「教育的配慮」を連発して説明を拒否。調査結果を府警に伝えていない理由についても「被害者の立場を考慮した」などと強調し、「教育的配慮」を約20回も繰り返した。【朝日弘行、古屋敷尚子】

●記事のメモ
「通報なしは問題」文科相、京教大に苦言


●あんまり発言がないですね。以下、メモ。
http://d.hatena.ne.jp/usoki/20090607
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20090602#1243910012
http://d.hatena.ne.jp/doroyamada/20090603/1244030324

*1:加害者とされる人や加害者に対する「教育的配慮」は必要です。しかし警察への通報の問題は、被害を訴える人が決めることであって、「教育的配慮」で左右されるべきことではないと思います。