ばらいろのウェブログ(その3)

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ひびのの10年パスポートの発給が拒否された件について


 今週、ベルリン国際映画祭が開催されます。この映画祭は世界屈指の映画祭で、今年で60回を迎えます。また、ベルリン映画祭には「テディ賞」(親サイト)というLGBT映画を対象とした賞が公式に設けられていることでも知られています。関西クィア映画祭でも、このテディ賞を受賞した作品をこれまで何度も上映してきました。
 今回、このベルリン映画祭の関係者パスを頂けることになりました。全ての映画を見放題です!!なので、行ってきます!ちなみにベルリンの気温は最高気温でもマイナス4度(2/10)と出ていて、正直ちょっと怖いのですが、もう飛行機は明後日出発です!


 さて、今回のベルリン行きに伴い、パスポートの発給を外務省に申請したのですが、通常の10年有効のパスポートの発給を正式に拒否されました。結論から言うと、1年間有効のパスポート(限定旅券)が発給されたのでベルリンには行けるのですが、日本政府の入管政策がどういう発想で行われているのか、身に染みる経験となりました。以下、その概要。


 パスポートの申請用紙をよく見ると、「刑罰等関係」という欄があります。その一つ目の項目が「外国において退去命令又は刑に処せられたことがありますか」となっています。
 実は私は、2002年にパレスチナの国際連帯運動(ISM)に参加したときにイスラエル軍に身柄拘束され、最終的に10年間の国外退去処分になっていました(国外退去処分を不服としてエルサレム地方裁判所に退去命令の取り消しを求めて裁判を起こしましたが、敗訴しています)。


パレスチナに行った時のまとめサイト


 この欄に正直に「はい」と書くと、何となくパスポートの発給を受けられないのではと不安に思い、素知らぬ顔をして「いいえ」にチェックをしようかとも思ったのですが、さすがに外務省のホームページにも名前入りで書かれているので、ばれると確実に詐欺とか虚偽記載とか、何か刑法でやられかねないと思い直し、正直に書いて申請をしてみました。


外務省の記事「人道支援活動関係者の拘束問題について」


(おそらく、ほとんどの場合は、黙って「いいえ」にチェックしたら、普通に10年パスポートが発給されるのかもしれません。私の場合も外務省がいちいちイスラエル政府に問い合わせてやっと入国禁止のことが確認できたわけですから、通常いちいちそんな確認を全ての人について全ての国についてするわけではないので。)



 すると、案の定カウンターの奥から人が出てきて、奥の方に呼び込まれます。そして、担当者の方とお話をすることになります。
 こちらは、別に隠すようなことをしているわけでもないし、日本国内で犯罪を犯して逃げようとしている訳でもなく、全く何も悪びれずに事情を説明します。上記の外務省のサイトも印刷して持って行きました。そして、外務省がイスラエル政府に問い合わせをしたところ、わたしは2012年12月31日までイスラエルの入国を拒否されていることが確認されました(この照会に半月ほどかかります)。
 でも別に、私は、何かイスラエルで悪いことをしたわけではなく、また日本の法律に触れる事をしたわけではありません。なので、当然通常の10年もののパスポートが発給されますよね、と聞くと、どうもそれは無理だとのお返事です。なぜ?その根拠を聞くと、旅券法の13条を挙げられました。

十三条 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
一 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者
旅券法 第十三条


 ならば、以前のパスポートに「但し北朝鮮を除く」とあったように(!)、「全ての国と地域、但しイスラエルを除く」と書かれたパスポートを発給してくれ、と求めましたが、ダメだと言われます。外務省が発給しない、とのことです。
 パスポートを発行するのは外務大臣ですが、実際の受付業務は都道府県が行っています(法定受託事務)。ですので直接私が話をしている担当者の方は、京都府の職員の方でした。なぜ私がイスラエルで国外退去になったのかなどを説明すると、だいたいの事情は理解していただいたようで、個人としては良心的な礼儀正しい方だと感じましたし、やりとりに不快な点はありませんでした。ただなにぶん、その担当者の方には全く何の権限もないので、個人の力ではどうしようもありません。これは裁判をするしかないのか、と思いました。
 ところが敵もさるもの、おそらくこんな事例でパスポートの発給拒否をしていたら、パスポートの発給拒否は相当な数に上るはずで、裁判とかも多数起こされているに違いありません。そこで、外務省としては「1年有効で渡航先を限定したパスポートなら発給できる」と言っているというのです。いやらしいなぁ(怒)


 さて実はここまでのやりとり、一昨年にやっていたことでした。その時は特に渡航予定はなかったのですが、円高だし、ふらっと安い海外旅行に行きたいと思ったら行きたいなと思ったので、その時は申請しに行ったのでした。
 その時は、特に急ぎの用事もなかったので、「だいたい、政府ごときが国民の国境の出入りを制限したり許可/不許可を判断する権限などない!パスポートを発給することが不適切である理由を政府が具体的に示せない限り、無条件でパスポートを発給するのは政府の義務だ」「だいたい、外国政府が強制退去にしようと、そのことが日本政府の行政としての行動と判断になんの関係があるのか」と思い、そう担当者の方にもお話しし、これは一度通常旅券の申請をしてその発給が拒否されたのを受けて不服申し立て―裁判をします!と言って一旦帰ってきたのでした。
 とはいえ「裁判とか面倒だ〜」とか思ってのんびり放置したままになっていました。(しかも私の場合、2012年をすぎればこの限定から外れるのも分かっていたので、あんまり危機感とかはなかったのも事実です)


 しかし今回、たまたまベルリン国際映画祭の関係者パスが頂けることになり、せっかくの機会なので行こうと思って、「完全に政府に屈服する形で」1年限定で渡航先の国も限定されたパスポート(限定旅券)を「黙って笑顔で」受け取ることにしたのでした。
(なお、渡航先がドイツだけでなく韓国や米国、台湾も記載されているのは、私が渡航予定の日程付きでそういう申請をしたからです。この一年間で、行けたら行きたいなぁと思って。)


 2002年にイスラエルでつかまったとき、イスラエル政府から「今すぐ自主的に国外に出ないか、そうすれば強制退去処分ではなく自主的に出国したことにするから」と取引を持ちかけられたことがあります。つかまった8人のうち5人はそれを受け入れてすぐ出国したのですが、イスラエル政府による不当逮捕に我慢がならなかった私を含む3人はそれを拒否して裁判したわけです。結局2012年まで私はイスラエルに行けないわけですから、どちらが良かったのかは迷うところですが。
 ただ、今回のように日本政府の行為であるパスポートの発給にまで関係してくるというのは予定外のことで、かつ腹立たしいことでした。しかも「1年限定なら発行する」とは、何ともずるがしこい。これなら、国民に手間とお金をかけさせて、申請の度に「政府がお前の許可をしてやっているんだ」というパフォーマティブなやりとりを繰り返して、政府の権力を誇示することができるわけです。あぁ、本当にうざい。
 ちなみに申請料は、通常の10年旅券は16000円(収入印紙14000円+京都府収入証紙2000円)ですが、私のような限定旅券の場合は6000円(収入印紙4000円+京都府収入証紙2000円)でした。


 でも、本来そもそも、京都府から滋賀県に行くのに京都府知事の許可も不要だし許可証も必要ないのと同じように、私は自由に外国にも行けるのが当然です。そこに勝手に関所を設置して、手形がないと通れないということに勝手に決めて、その手形の発給において裁量権を行使することで、役所が市民をコントロールしているのが日本の現実です。
 もちろん、こういった不便さと政府の横暴さは、日本への再入国許可が必要な状況に置かれている在日外国人*1などに比べればはるかに「たいしたことではない」のは確かです。ただ、国境というものの不便さと暴力性を直接実感できたことは、個人的にはいい勉強になりました。てかやっぱりひどい。腹立つなぁ。


 皆さま、どう思われます?

*1:日本国籍がある人は、外国で何かあっても帰国/日本への入国自体は必ずできます。しかし、在日朝鮮人は、永住資格があっても再入国には許可が必要で、日本の家に帰ることが権利として法的に保障されていません