ばらいろのウェブログ(その3)

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バンクーバー・クィア映画祭が「ピンクウォッシング広告」を掲載したため、Sins Invalidは、自身の映画『罪なき罪ークィアと身体障害』を映画祭から引きあげる


 映画『罪なき罪ークィアと身体障害』を覚えているでしょうか。Sins Invalidという米国のグループの表現活動を描いたドキュメンタリー映画で、昨2013年の関西クィア映画祭でも上映され、とても好評な映画でした。
 この映画、来週から開催されるカナダのバンクーバークィア映画祭でも上映される予定でした。ところが映画祭の印刷されたガイドブックに「Yad b’Yad」という団体の1/2ページ大の「ピンクウォッシング広告」が掲載されていたことから、それに反対する目的で、ベルン監督らSins Invalidの人達は映画祭での上映をキャンセルし、別の独自の上映会をすることにした、との話です。


 「ピンクウォッシング」というのは、「イスラエルLGBTの権利を擁護している、LGBTフレンドリーである」という宣伝を積極的にすることを通して、イスラエルがまるで人権を尊重している国であるかのようなイメージを創り出し、そのイスラエルが同時にパレスチナを不当に攻撃し占領し多数のパレスチナ人を殺している、という都合の悪い事実を洗い流して忘れさせる、という宣伝工作のことです。(「ピンク=セクマイ色」)
 実際日本でも、例えば東京レインボーウィーク2014のパンフレット「WHO?Magazine」には、「ゲイシティ テルアビブの魅力」「テルアビブに学べ!こうすれば東京も変わる!」などといった特集ページが、なんと4ページにも渡って掲載されています。また、東京レインボープライドでも、イスラエル大使館が後援や協賛してブースを出したり大使がステージで挨拶をしたりもしています。勿論そこには、パレスチナや占領の事は何も出てきません。いずれも、典型的なピンクウォッシングです。
 また私自身の経験からいっても、関西クィア映画祭に対して、こちらからは何のアクセスも一切していないのにイスラエル大使館から電話がかかってきたりします。また以前2009年にイスラエルがガザを空爆した時には抗議のポスターを映画祭会場に掲示したんですが、そのポスターへのクレームが観客から来たりもしました【No Pride In The Occupation/Jさんへの返信】。
(具体的なことについては、8/16(土)の企画【映画で考える:同性婚・レイシズム・ピンクマネー・クィア】でもお話しできると思います)


 ともあれ、この間ずっと世界の市民社会に対して呼び掛けられてきたイスラエルへのBDS運動ですが、身近なところでも現実化していることを、取り急ぎ報告させて頂きます。

バンクーバークィア映画祭2014への、Sins Invalidの声明


2014年8月6日水曜日



Sins Invalidは、障害の正義に基づくパフォーマンス・プロジェクトです。有色で障害を持つアーティストや、クィアや性別に順応しない障害を持つアーティストを中心にしています。
私たちの作品は、エロティックな人間性が肉体化されている障害者の身体を祝福します。そして私たちは、全ての身体は、人々のとても現実的な社会的、政治的、経済的、文化的な文脈の中に生きていることを知っています。


私たちは、障害を持つ人々のセクシュアリティーや性的な自己表現の権利、人間的に繋がる権利、といったことと、全ての人の、食べ飲み、保護され、医療を受け、息をし、主権を持ち平和に生きる権利とを、分けることは出来ません。


私たちは自身の仕事を誇りに思っており、バンクーバークィア映画祭(VQFF)で、映画と討論の時間を設けることを楽しみにしてきました。それは、私たちのパフォーマンスについてのドキュメンタリー映画の上映を含むもので、私たちにとっても、新しい観客と作品を共有する貴重な機会でした。


しかし私たちは、VQFFが受け入れた印刷広告を見て、怒り失望しました。まさに今、パレスチナの人々が地獄の中を生き、驚異的な数の人が毎日死んでいるその時に、VQFFの印刷広告は、イスラエル国を、LGBTQコミュニティーの友人のように描こうとしていたのです。その広告はイスラエルが世界規模で行っている「ピンクウォッシュ」というイメージ戦略の一部であることを私たちは知っています。それは、イスラエルクィアたちが特権を享受していることを、全ての指向を持つパレスチナ人への非人間的な取り扱いについて沈黙するための十分な理由であると他国のLGBTQの人々に信じさせる、というものです。


パレスチナ市民社会は、ボイコットや資本引き揚げ、制裁という非暴力な手段によって、政治的な圧力と道徳的な説得をイスラエル社会に対して行うことを、世界に対して呼びかけています。そして、私たちはこの呼びかけに応える事にしました。


私たちがこれらの言葉を書いている間、イスラエル軍はガザで、毎日、パレスチナクィアを含む多くのパレスチナの一般市民を、殺し続けています。
イスラエル軍は何千もの人々を障害者にする一方で、病院を爆撃し、救急車を銃撃し、障害リハビリ施設を破壊しています。まさに現在の攻撃によって負傷した数千の人たちは、多くはずっと障害を持ったままで、日常生活に必要な基本的な物資が境界線で止められ、基本的な医療(それは、十分な医療・理学療法・適応技術と言うにはほど遠いものでしかない)が届かない場所にいます。
こういった、新しく障害を持ったパレスチナ人たちは、パレスチナ社会に対する「重荷」だと時に言われてきました。実際、占領と国家暴力の重荷を最も直接に負担し、最も顕著にその傷跡を示す身体を持っているのが、これらのパレスチナ人なのです。


この広告の結果として、私たちは、バンクーバークィア映画祭のプログラムから撤退し、映画『罪なき罪ークィアと身体障害』の上映を辞退することに決めました。私たちは、8月18日月曜日の午後7時から、バンクーバーの代わりの場所で、映画を上映する予定です。VQFFのプログラムのために購入されたチケットは、私たちの代替企画においても尊敬されます。


映画祭としての広告ポリシーの不在が問題なのではなく、入植者の植民地主義と暴力的なパレスチナの占領という事実を映画祭が認めようとしないことが問題だということを、映画祭として検討するよう私たちは求めます。また私たちは、映画祭に参加する人達に対しても、私たちの側に立つことを呼び掛けます。今後も「ピンクウォッシング」の資金を拒否することに同意するように、そしてたとえどこに生きる人であっても全てのクィアや性別に順応しない人々の側に連帯して立つように、バンクーバークィア映画祭に、あなた方が求めて下さい。


(翻訳:ひびの まこと)

  • 原文(英語)

http://sinsinvalid.org/blog/statement-re-the-vancouver-queer-film-festival-2014

  • イメージの説明

刑務所の独房にいる浅黒い肌の障害女性(左側)が、戦争地帯にいるオリーブ色の肌の障害女性(右側)と、握手をしている。左側の女性は車椅子を使い、囚人服を着ていて背景には格子がある。右側の女性はヒジャーブを着用し、最近、左腕と左足を切断して包帯を巻いている。書かれている文字は「障害の正義とは、独居房から天井のない監獄まで、いっしょに抵抗することである」アートは Micah Bazant と Sins Invalid による。