ばらいろのウェブログ(その3)

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アメリカのメディアがパレスチナ/イスラエルについて、あなたに語らない9つのこと▼ハマスを理解する▼ガザの集団懲罰


私のブログを見に来てくれる方もおられますので、パレスチナ関連情報も、少しずつ掲載していきます。
今日も、岡真理さんの翻訳で、ガザ地区ハマスに関するものを紹介します。
メール3本分で、読み応えがあります。

みなさま、
本日、これから3本の投稿をいたします(連投、お許しください)。
まず、このメールで、
アメリカのメディアが、パレスチナ/イスラエルについて、あなたに言わない9つのこと」
をご紹介します。そのあと、「ハマースを理解する」と「ガザにおける集団懲罰」の2本をお送りする予定です。


「ハマースなんか理解したくない」と思われるかもしれませんが、読んでみてください。
内容的にそれぞれ、密接な関連がありますので、順番に読んでいただければ幸いです。
企業メディアが必死になって歪め、私たちの目から隠蔽しようとしている、問題の本当の構図がどのようなものであるのか、見えてきます。


アメリカのメディアが…」は題名どおり、アメリカの主流メディアが決して語ろうとしない9つの論点について紹介しています。
(日本の主流メディアの報道とも、だいぶ重なるように思います。)


その9つの論点を先にご紹介します。

  1. イスラエルは民間人の死を避けようと思えば避けることができる。
  2. ユダヤ人の3人の少年たちは、誘拐された直後に殺されていた。
  3. ガザは実質的に、野外監獄である。
  4. アイアン・ドーム(イスラエルの迎撃システム)はイスラエルを護っていない。
  5. イスラエルは2000年以来、1500人以上の子どもを殺している。
  6. ハマースは二国家案を受け入れている。
  7. ハマースはイスラエルに挑発的攻撃を受けてきた。
  8. ハマースとファタハの統一は良いことである。
  9. イスラエルは戦略兵器ではない。


6の「ハマースが二国家案」を受け入れている」の「二国家案」とは、1967年の境界線を国境にして、西岸とガザにパレスチナ国家を建設することをハマースが受け入れている、ということです。つまりオスロ合意におけるPLOと同じ立場だということです。


私たちはメディアによって、「イスラエル生存権を認めないハマス」という言葉をこれまで耳にタコができるくらい聞かされているので、にわかには信じられないことかもしれません。


これについては、次の「ハマースを理解する」で、さらに詳しく説明されていますので、ぜひ、こちらもお読みください。


7の「ハマースはイスラエルに挑発攻撃を受けてきた」ですが、日本の主流メディアの報道だけ聞いていると、ハマースがイスラエルをさかんにロケット弾で攻撃するので、イスラエルの堪忍袋の緒が切れて、ついに自衛のための戦争を始めたかのように思ってしまいます。


でも、2012年11月の攻撃の停戦から今回の戦争開始まで、停戦合意を破り攻撃しているのは、むしろ圧倒的にイスラエル側であるという事実も、アメリカ同様、日本のメディアもぜんぜん報じていません。


これについては、たいへん分かりやすく図像で説明したものがありますので、こちらをご覧ください。
Infographic: Who violates ceasefires more, Israelis or Palestinians?Ali Abunimah / Electronic Intifada / 07/24/2014
http://electronicintifada.net/blogs/ali-abunimah/infographic-who-violates-ceasefires-more-israelis-or-palestinians


さて、本稿の著者、アラステア・スローン(Alastair Sloan)は、不正、抑圧、人権をテーマとするイギリスのジャーナリス、作家。ガーディアン紙、アル=ジャジーラ等に執筆しています。著者のHPはこちら→ http://unequalmeasures.com/published/


なお、英語原文では、出典等、すべてリンクが張られています。出典や論拠を知りたい方は、オリジナルでご確認ください。

アメリカのメディアがパレスチナ/イスラエルについて、あなたに語らない9つのこと

http://mondoweiss.net/2014/07/american-telling-israelpalestine.html


アラステア・スローン
Mondoweiss / 2014年7月29日


7月8日に始まったガザにおけるイスラエルの「プロテクティヴ・エッジ(保護の刃)作戦」全体を通して、合衆国のメディアは、選択的な報道や、歪んだ意見、イスラエルの立場を暗に支持する嘘のバランスを利用して、パレスチナ人に対しバイアスがかかっていることが日増しに明らかになっている。ザ・デイリー・ショーの司会、ジョン・スチュアートは最近、メディアはパレスチナ人よりもイスラエル人の生命により重きを置いていると批判した。



これは、今に始まった問題ではない。メディアのバイアスをモニターしている監視団体、フェアー(Fair)は2001年、NPR(国営公共ラジオ)が、イスラエルの子どもの死であれば、その89%を報道するのに対し、パレスチナ人の子どもの死は20%しか報じていないと発表した。2年後、学者のマット・ヴァイザーが「国際プレス・政治ジャーナル」誌に発表した調査報告によれば、ニューヨークタイムズは、イスラエル人の死を人格をもった人間の死として報道している一方、パレスチナ人の死はほぼ無視しており、また、情報も圧倒的にイスラエル側に依拠している。2012年11月の8日間のガザ攻撃のあいだ、CNNがインタビューしたイスラエル軍将校の数は、パレスチナ人の2倍に及んだ。


今日のガザ危機に話を進めると、バイアスは依然、存在している


最近の出来事についてのブルームバーグ・ニュースを見てみよう。「ハマースが停戦案を拒否したあと、イスラエルはガザの爆撃を再開」。ワシントン・ポストイスラエルは攻撃を停止、ハマースは停戦せず」。7月10日にワールドカップを観戦していた8人の若者がイスラエルのミサイルで殺されたことについて伝える記事の最初の見出しは、「ガザの浜辺のカフェにミサイル、ワールドカップ観戦の常連客と遭遇」だった。
ニューヨークタイムズのお粗末な編集ぶりに感謝したい。


これらの見出しはすべて最終的に変更されたものだが、合衆国メディアにおいてパレスチナ人の苦しみがいかにして自動的に矮小化されるかをいくつかの点で象徴している。


ダニー・シェサーが今日の危機について書いたエッセイ「イスラエルの広報はガザの大量殺戮をいかに売るか」は一読をお奨めするが、その中で、シェサーが言っているように、まさに「24時間延々と」。


では、合衆国のメディアは、アメリカの視聴者の目から何を隠しているのか?合衆国のニュースで、イスラエルについて、あたなが決して耳にしない9つの事実がある。




その1.イスラエルは民間人の死を防ぐことができる。


過去12日間のあいだ、イスラエルの攻撃は、1000人以上を殺害した。大半が民間人である。

イスラエルは、[これらパレスチナ人民間人の]死は、ハマースが、普通のパレスチナ人を人間の盾に利用している結果であると言い、おぞましい死者数もただ、肩を竦められるのが落ちだった。

2009年に遡ると、キャスト・レッド作戦のあいだ、国連総会の議長、ミゲル・デスコト・ブロックマンは、イスラエルはガザで民間人を標的にしており、国際法を侵犯しているとイスラエルを非難した。

ロックマンは、攻撃を、「無力な、身を守る術のない、閉じ込められた人々に対する戦争」と呼んだ。「ガザ攻撃に孕まれる国際法の侵犯はしっかりと記録されている」と彼は付け加え、集団懲罰、[攻撃対象と]釣り合わない法外な軍事力の行使、そして住宅やモスク、大学、学校など、民間施設を標的にした攻撃などを挙げた。

イスラエルはどうしても民間を狙って発砲しなければならない、というわけではない。イスラエルはわざわざ、選んでやっているのだ。イスラエルの爆撃シェルターの包括的ネットワークを考えれば、ハマースのロケットなど、いずれにせよ、大した威力はない。これまでイスラエルで殺された民間人は3人だけだ。

イスラエル軍による「多くの死傷者をもたらす違法な空爆の長い記録」に注目して、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長、サラ・レア・ホワイトソンは、「イスラエル国防軍のメンバーの自宅ならどれでも、軍事的な攻撃目標として合法であると主張してもイスラエルは決して受け入れたりはしないだろう」と述べている。

IDFのスポークスパースン、ピーター・ラーナーは、記者たちから直接、質問されたとき、住宅が、ロケット攻撃のコントロール司令部として使われているといういかなる証拠も提示することができなかった。




その2.3人のイスラエル人の少年たちは、誘拐された直後に殺された。


事件調査ジャーナリストのマックス・ブルーメンサールは最近、6月、西岸のヘブロンで誘拐され、行方不明中の3人の少年たちが、誘拐されたその直後にすでに殺されていたことをイスラエル政府は知っていた、ということを明らかにした。だが、この事実は、公にはされず、その代わりに、行方不明の少年たちを捜索することで、西岸に暴力的な弾圧が広がった。


ブルーメンサールが言うには、ネタニヤフ首相は、誘拐に対する怒りを利用して、その後に続いた侵略的な軍事攻撃を正当化する十分な支持を醸成したのだった。




その3.ガザは基本的には、野外監獄だということ。


ガザの経済封鎖は、集団懲罰の一形態であり、それは、監獄の中で生きるようなものだと住民たちは言っている。軍の検問所や、強大なIDFの存在、高い壁などによって、ガザ地区は見た目も監獄だが、ガザを「監獄」たらしめているもっとも残酷な要素は、イスラエルが課す封鎖のせいで経済的自由がないことである。


イスラエルは、ガザ地区との国境の検問所を完全に支配し、制海権、制空権を握り続けており、これにより物資と人間の移動が制約されている。イスラエルは、[ガザから]軍隊を撤退させたので、それにより、ガザは占領されてはいない、と主張するが、イスラエルは依然、税制をコントロールしている。


これらの規制の結果、住民の68%が1日、1ドル以下の生活を余儀なくされている。対照的に、イスラエル人の平均は、その85倍である。


その監獄の内部で、パレスチナ人は、イスラエルによって内的にも支配されているために、十分な医療も、教育も、仕事も手に入らない。土地や作物、医療施設、学校や大学にアクセスし、家族や友人に会うのにさえイスラエル当局の許可が必要だ。




その4.アイアン・ドームはロケットからイスラエルを護ってはいない。


アイアン・ドームは、「ゲーム・チェンジャー(ゲームの流れを変える者)」と称賛される防御システムで、上院は、ハマースがイスラエルに向けて発射するロケットを迎撃するために設計されたこの軍事プログラム支援用に3億5100万ドルの予算を認めたばかりだ[7月22日]。


だが、ディック・ダービン上院議員がこの防御システムについてどれだけまくしたてても、国のミサイル防御システムとしてそんなにいいものではないように思えるのだが。


マサチューセッツ工科大学の物理学者でミサイル防衛の専門家であるテオドール・ポストルは、迎撃率を5%と見積もっている。防衛関連企業ラファエルのもと社員、モルデハイ・シェフェル博士その他の研究者と共同で、ポストルのチームは、「迎撃」のようすを何十本もヴィデオ撮影して分析した。


彼らの判定は? [迎撃が]成功したように見える爆発の大半は、実際には、アイアン・ドーム側のミサイルの自己破壊だった。合衆国の納税者にぜひとも知らせてあげた方がいいのではないか。




その5.イスラエル軍は2000年以来、1500人以上のパレスチナ人の子どもたちを殺している。


この数字は、「プロテクティヴ・エッジ」作戦が猛威を振るうなか、上昇の一途をたどっている。2000年以来、およそ1500人ものパレスチナ人がイスラエルの保安軍に殺害された。13年間、3日に1人の割合で殺されているということだ。同じ期間中、パレスチナ
人が殺したイスラエル人の子どもは132人。




その6.ハマースは、1967年の境界に基づく2国家を受け入れている。


いや、本当だ。悪名高い1988年のハマース憲章は、2006年、評議会選挙でのハマース勝利を受け、事実上、更新され、ハマースは1967年の境界線に基づいたパレスチナ国家を受け入れると認めている。


2006年、イスマーイール・ハニーエ[首相]は、ブッシュ大統領に手紙を書き、「我々は地域の安定と安全保障を心配しており、1967年の境界を国境としてパレスチナ国家を建設し、そして、長期にわたる停戦を申し出てもかまわない」と述べている。


ハマースは、謙虚以上のものを示しているが、イスラエルのネタニヤフ首相自身は、パレスチナ国家など決して受け入れるはしないと語っている。




7.ハマースはイスラエルに挑発されてきた。


私たちが右派のレトリックやフォックス・ニュースを信じるのだとすれば、ハマースが、ガザにおけるイスラエルの強力な軍事攻撃を挑発しているということになる。下院議長、ジョン・ボーナーは最近、ハマースを「イスラエルに対し攻撃的で、いわれのない暴力行為」を行っている非難した。


エリック・カンター下院議員も同意見だ。「イスラエルに対するハマースの非道で、いわれのない戦争は止めねばならない。」ハマースの戦術が嫌悪すべきものであるにしても、彼らの行動は予想可能であり、挑発されてきたのは彼らの方だ。


イスラエルはガザが港や空港をもつことを許さず、ガザが生産するものの大半の輸出も許さない。パレスチナ人は自分たちの土地の3分の1で働くことができない。イスラエルが、安全保障のための緩衝地帯としているためだ。


残忍な経済封鎖のせいで、ガザの5歳以下のパレスチナ人の子どもたちの10%が栄養不良による成長不良となっている。2010年、セイヴ・ザ・チルドレンの調査によれば、パレスチナ人の子どもの3分の2と、母親の3分の1が、貧血を患っている。


デヴィド・キャメロン英国首相は、2010年に、「ガザは強制収容所であり続けるのを許されてはならない」と述べ、次のように言った、「ガザの人々は、野外監獄で、絶えざる攻撃と圧力のもとで生きている。」


監獄の反乱を是認するつもりはないが、こんな監獄なら看守は言うだろう、「反乱は起こる」と。




8.ハマースとファタハの統一は良いことである。


6月に遡って、対立していたハマースとファタハの統一政府が発足した。合衆国は、武装組織であるハマースが[政府に]入ることに憂慮を示したが、ハマースは、新政府と協働していく準備があると語った。


イスラエルのネタニエフ首相は、ハマースも加わった新政府を承認しようとはしなかった。首相はこれを、「後退」と呼んだ。共和党上院議員のリンゼー・グラハムは[新政府発足の]ニュースに嫌悪を示した。


「これは、イスラエルとの本格的和平交渉に対する、パレスチナ自治政府による挑発的行為である。パレスチナ人は、オバマ政権に対し恐れも尊敬もほとんど抱いていないのだということを表している」


おそらくビビ[ネタニヤフ首相の愛称]は、友人のトニー・ブレアと話をしたらよいだろう。首相として、ブレアは、1988年、北アイルランドで「良き金曜日」合意(北アイルランド紛争終結協定)を立案した。


「トラブル」――30年に及ぶ北アイルランドにおける暴力的な紛争はこう呼ばれていた――は、650名の民間人の命を奪った。その大半は、アイルランド共和国軍IRA)のテロリストの手によるものだった。だが、彼らはようやく政治に参入した。それは、歓迎すべきことだった。テロリストがテロに代わって対話を選ぶとき、それは、前進するサインである。ネタニヤフはまだ、それを受け入れる準備ができていないのだ。




9.イスラエルは戦略兵器ではない。


アメリカ人の半数近くが、イスラエルを同盟国として見なしている。
共和党上院議員トレント・フランクは、イスラエルのもっとも雄弁な支援者の一人である。彼は、アメリカは「この地上で我々のもっとも貴重な同盟」を護るための、自由の武器庫であると誓っている。友情の腕輪を編みながら、フランクは、「イスラエルはここに永遠にいる」と語る。


1948年春、大統領執務室に立ちながら、合衆国の国務長官ジョージ・マーシャルは建国されたばかりのイスラエル国家を承認するかどうかについてトルーマン大統領に助言した。彼の見解は、ユダヤ国家を支援することは、より広いムスリム世界との関係を損なうだろう、したがって、中東の石油に対するアメリカのアクセスを危険にさらすだろう。彼はまた、中東がより広範に不安定化することを警告した。


トルーマンはこの助言を聞き入れなかったが、マーシャルの予言は的中した。2013年のピュー研究所の報告によれば、イスラエルユダヤ系市民の90%が合衆国に対し好意的だが、イスラエルパレスチナ系市民では42%だ。


中東のいずこのムスリムもそうであるように、アメリカの評判はここでも地に落ちている。結果、オサーマ・ビン・ラーディンに率いられた卑劣なテロリスト集団が、(いろいろある不満の中でもとりわけ)アメリカのイスラエル支援に腹を立て、アメリカ人を殺害した。


アメリカ大使館や戦艦や民間人を標的にした攻撃で成功を収めたあと、アル=カーイダは世界貿易センタービルを攻撃、およそ3000人のアメリカ人が一日で死んだ。だから、イスラエルアメリカ人にとって戦略兵器なのか。むしろ、重荷ではないのか?

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以上



■拡散歓迎■


京都の岡真理です。


本日、2本目の投稿です。
先ほどお送りしたアラステア・スローンの「アメリカのメディアが、パレスチナ/イスラエルについて、あなたに語らない9つのこと」に続いて、カタ・シャレットの「ハマースを理解する」をご紹介します。


ハマスなんか理解したかない!」などとおっしゃらずに、どうか、ご一読いただければ幸いです。嫌うにせよ批判するにせよ、まずは事実をきちんと踏まえることが肝心だと思いますので。


著者のカタ・シャレット(Cata Charrett)は、英国ウェールズ地方のAberystwyth大学の博士課程で博士論文提出資格をすでに得ている研究者(Ph.D.candidate)です。2006年のパレスチナ評議会選挙以降のハマースとEUの関係について専門に研究しています。


日本の主流マスメディアは、ハマースについて言及するとき、「ガザを実効支配しているイスラム原理主義組織ハマス」と並んで「イスラエル生存権を認めていないハマス」と説明します(昨日の「クローズアップ現代」でもそう言っていました)。


それだけ聞くと、「イスラエル生存権を認めていない」=「イスラエルユダヤ人の殲滅を企図している」=「和平に反対、ユダヤ人をパレスチナから追い出そうとしている」=だから、いつもロケット弾でイスラエルを攻撃している…というように思ってしまっても不思議ではありません。


和平の障害となっているのはイスラエル生存権を認めないハマース、問題が解決しないのは原理主義のハマースがガザを支配しているせいだと。


ハマースは本当に、和平を望んでいないのでしょうか?


シャレットの論考の結論を先にまとめておくと、
先の「アメリカのメディアが…」でも論じられているように、ハマースは、1967年の境界線に従って、パレスチナ国家を建設し、長期にわたる停戦をする用意があると明言しています。また、ファタハとも和解し、民族統一政府を作ったように、政治外交路線で和平について交渉したいと考えています。


しかし、米国やEUは、そうしたハマースの政治外交努力を無視し、ハマースの実際がどうであろうと、あくまでもテロリストとみなし続けるイスラエルの方針に追随しています。


そうであるとすれば、和平を望んでいないのは、ハマースではなくイスラエルであり、イスラエルの方針に追随しているアメリカやヨーロッパ諸国こそ、紛争の永続化と犠牲者の増大に加担しているということになります。


主流メディアが、私たちに思い込ませたい問題の構図とは、まるで正反対の構図が浮かび上がってきます。


パレスチナ人の帰還権を支持するユダヤ人」の声明に引用されていたマルコムXの警句が想起されます――新聞を読むときは気をつけて読まないと、抑圧されている者を憎み、抑圧をおこなっている者を愛するようになってしまう。

ハマスを理解する

http://mondoweiss.net/2014/07/understanding-hamas.html


カタ・シャレット / Mondoweiss / 2014年7月14日


2006年、パレスチナの評議会選挙で勝利を収めると、新たに首相に選出されたイスマーイール・ハニーエは、ブッシュ大統領に書簡をしたためた。この書簡の中でハニーエは、彼の新政府が承認されることを求め、1967年の境界を国境とすることを申し出、長期にわたる停戦に同意した。


ハニーエは以下のように書いている。
「私たちは、民主的なプロセスで選ばれた政府です。」
「私たちは域内の安定と安全保障を重要視しており、それゆえ1967年の国境に基づいてパレスチナ国家を建設し、長期にわたり停戦することを申し出てもかまいません。」


「私たちは戦争屋ではありません。平和を創るものであり、私たちはアメリカ政府に対し、新たに選出されたパレスチナ政府と直接交渉をもつよう呼びかけます」とハニーエは書いた。同様に、アメリカ政府に、ハマースに対する国際ボイコットを終わらせるよう呼びかけている。「なぜなら、ボイコットの継続は、域内全域に暴力と混乱を煽ることになるからです。」


ブッシュ大統領はこの書簡に応答せず、合衆国はハマースとガザに対するボイコットを継続した。


2006年の選挙以来、ハマースはEUアメリカの代表と外交的な接触を打ちたてようと繰り返し努力した。そのすべてが拒絶された。ハマースは民主的プロセスによって選出された。この民主プロセスをEUは歓迎し、資金も提供し、監視し、自由かつ公正であったと宣言している。ハマースと西洋の外交官とのあいだで秘密裏の非公式会合は継続して開かれているが、その内容はいつも同じだ。「カルテットの原則を受け入れなければ、我々は、お前たちを非合法組織として扱い続け、ボイコットを続ける」というものだ。[カルテットの原則:カルテット(国連、EU、ロシア、米国)がパレスチナ政府を承認する3条件:1.イスラエル国家の承認、2.過去の合意事項の遵守、3.武装闘争の放棄――訳者]


2007年のワシントンとイスラエルのやりとりがリークされたが、その中で、イスラエルの諜報局長、アモス・ヤドリンは、「ハマースがガザを制圧してくれればイスラエルとしてはありがたい、そうなれば、IDF(イスラエル国防軍)はガザを敵性国家として扱うことができる」と述べている。


そして、まさにそうなった。ハマースが民主的選挙によってガザを掌中にすると、イスラエルはガザを敵性地区として扱った。そして、まさにこの瞬間も、それが起きているのを私たちは目にしている。イスラエルは、ハマースはテロリストだと述べ、西洋の指導者たちもこの方針に異を唱えなかった。それどころか、ハマースの指導者と外交上、会うのを拒絶し、新たに選出された政府に対するあらゆる融資をやめ、ガザの領土に対するイスラエルの完全制裁と封鎖を支持したのだった。イスラエルはハマースをテロリストだと述べ、ヨーロッパの諸政府とアメリカ政府はそれに従った。


この方針は、西洋政府の国策としてたいへん強力なものとなり、主流メディアの報道機関によるガザをめぐる発言はすべて、ハマースに対するイスラエルの「自衛権」、すなわち、イスラエルによるテロリズムからの防衛という言説に還元されることになった。ハマースはテロリズムと同義になり、ガザは「テロリストが匿われている領土」と同義になった。


そのようなものとしてイスラエルは、テロリズムから自らを守るためだと言って、誰ひとり介入する者のない、無差別かつ過激に不均衡な軍事行動という凶悪な贅沢を自らに与えた。西洋の諸政府および西洋の主流メディアの報道機関は、ハマースのアイデンティティについて暴力的に誤解した情報を買い、支持し、広め続けている。


私は、大勢のハマースのメンバーや指導者に会ったことがある。西洋の主流メディアの言説におけるハマースと、その行動やパレスチナ社会におけるその地位についての矮小化されレイシズムに満ちた誤解に、私は深く失望し、意気消沈している。2012年9月から12月にかけて、私はガザで3か月の調査旅行をおこない、ハマースのメンバーやリーダーたちと、2006年の選挙における彼らの勝利に対する西洋の反応について話をした。会話の中で彼らは、かくも根深く誤解され、誤って表象されていることについて、彼ら自身、抱いているフラストレーションと悲しみを語ってくれた。


ガザにおけるハマースの地域マネージャー、アフマド・マジュディは、外部の多くの権力が自分たちをテロリストと見なしていることを自分たちは自覚していると語り、その誤解は、イスラエルからの誤った報道に基づいているからだと説明した。


ハニーエ首相の顧問、アフマド・ユースフは、自分たちが西洋で非人間化され、悪魔化されていることを我々は知っていると言い、だからこそ、単にステレオタイプ化するのではなく、西洋の高官たちはここに来て、自分たちと会って、ハマースについて、そしてハマースの政策について、よりよく理解してほしいと語った。


ハマースは西洋の外交官に対して門戸開放政策をとっているとユーセフは言った。ハマースは承認され、外交的関係を結びたいと願っているのだと。しかし、合衆国とEUの国々の代表者たちは、新たに選出された政府を承認することを拒み、ハマースに対する財政的、外交的制裁を継続しているのだと。


ハマースのリーダー、ガーズィ・ハマドは私にこう語った。「EUはハマースに反対し、陰で脅しをかけ、失敗させたいと思ったのだ。世界に、我々はイスラーム主義者には権力の座に就いてほしくないと示すために。イスラーム主義者によって民主主義がもたらされてほしくなかったのだ」




■ハマース憲章の強迫的強調


西洋のメディアでハマースに関して論じられるとき、ほとんどの場合、ハマースの悪名高い1988年憲章で始まる。だが、ハマースの軍事的立場について強迫的なまでに狭隘な解釈をおこなう報道各社は、果たして一度でも、ハマースの政治的仕事について調べてみたことがあるのだろうか。


これら報道各社は、他の専門家の手による憲章の詳細な分析を読んだことがあるのだろうか。たとえば、メナヘム・クラインは次のように書いている。
「ハマースの政治要綱とイスラーム憲章のあいだの相違は、欺瞞でもなければ、言葉が空疎かつ無思慮に使われているからでもない。それらの相違は、ハマースが政治運動となったことによるプロセスの一部として、その考えの方向性が変化し、修正された結果、生み出されたものだ。」


ハマースは、憲章を取り消しはしないとクラインは説明する。憲章はハマースにとって、第一次インティファーダさなかに彼らが活動を始めたときに書かれた重要な歴史文書だからだ。しかしながら憲章は、現行の形態となったハマースを表すものではない。


現在のハマースをよりよく表す文書がある。2006年の選挙のマニフェストは、パレスチナ社会についてのハマースがより広い視野をもっていることを表している。起草したハーレド・フルーブが述べるところによれば、「マニフェストは、西洋諸国の政府や金融機関に要求されたいくつかの改革を実行するために考案されたと言える」。ところが、合衆国もEUの高官も、鈍感にも、ハマース憲章にとり憑かれ続けているのだ。


ハマースについてのこの還元主義的で具体的な読みを通して、西洋の高官は、ハマースの政治に目を閉ざし続けている。ハマースの創設者やパレスチナ立法評議会の現行メンバー、ハリール・アル=アーヤは、インタビューの中でこう述べている。


ハマースは、多くの場で、実に臨機応変だった。我々は戦略的なものと固定的なものをもっていた。たとえば、ガザとパレスチナのすべての党派による計画もあった。我々はそれに同意したのだ。今に至るまで、EUはこのイニシアティヴについて知らない。ハマースは以前からとてもフレキシブルだ。それに我々は、他の党派とともに、イスラエルとの合意も考えている。我々は、帰還権が承認されれば、1967年の国境を受け入れる。これはすごいことだ。だが彼らに害はない。出ていけというわけではないのだから。」


ハマースは、実用主義臨機応変な政治的当事者だが、1988年の憲章にばかり焦点化することは、ハマースが今、どのような存在か、ということを完全に見誤ることになる。しかし、恥さらしなことに合衆国やヨーロッパ諸国は、彼らの無教養ゆえか、あるいは意図的にか、ハマース理解について誤った方向に引っ張って行こうとしている。ハマースやその活動について議論するとき、イスラエルの意図的な、人を不安に陥れるレイシズムの言説を繰り返していれば事足れり、であるかのようだ。


おそらくより困った問題は、一般の人々も、ハマースについてのこの恐ろしい誤解を鵜呑みにしていることだ。ツイッター、ブログ、報道記事に寄せられるコメントを見ると相変わらず、ハマースをテロリストと見なし、ガザの人々をテロリストの支持者と見なしている。ハマースについても、ガザについても、何も知らない人々が、イスラエルが、これはイスラエルの自衛の権利だと言っているから、という理由で、ガザに対する爆撃を支持して満足しているのだ。公衆の目には、悪質なことに、ガザの破壊もガザの人々の命の破壊も映らない。彼らはみな、テロリストの一団だと信じているからだ。


イスラエルはこの特別な政策を推し進め、広め、コントロールし、悲劇的なまでの成功を収め、その結果、西洋のリーダーや西洋の公衆のあいだに、幻覚状態がインストールされてしまったのだ。




パレスチナの統一


2007年、ハマースとファタハはメッカ合意に調印後、民族統一政府を形成した。ハマースは、国際的承認を得て、ガザと自分たちの政府に対するボイコットを緩和するために、統一政府をつくることが奨励されていた。


合意署名後、ハニーエ首相は、主にハマースの代表で構成されていた第10期の政府を解散し、ファタハとハマースのメンバー同数ずつと無党派の代表多数で構成される民族統一政府を創った。これらの変化にもかかわらず、西洋の指導者たちは、ハマースのボイコットとガザに対する封鎖を継続した。インタビューの中でハマースのリーダー、アフメド・ユースフは継続するボイコットに対する不満を述べた。


「我々は彼らの政策にがっかりした。彼らは、約束したことを実行していない。彼らは我々に、「ハマースが民族統一政府を創れば、ヨーロッパはハマースに門を開きますよ」と言った。だが、不幸にも、統一政府を創っても、彼らは門を開かず、閉ざしたままだ。」


今、あれから7年がたち、ハマースに投票したことに対してガザの人々を集団懲罰するという暴力的な政策のあとで、ファタハとハマースがもう一度、[統一政府作りを]試みた。不幸なことに、今日、私たちはこの統一政府について語ってはいない。不幸なことに、今日、西洋の指導者たちは、この統一政府と関係を結んでほしいという彼らの願いを追いかけてもいない。


不幸にも今日、ファタハとハマースは、この統一戦線が、彼らの政治的主権の中で残っているかもしれないものを救い出そうとする試みにおいて、パレスチナ社会を強化するのをいかに助けるか、ということについて話してもいない。代わりに、私たちが話しているのは、相変わらず、イスラエル自衛権と見なされているガザの爆撃についてだ。テロリズムについてのイスラエルのナラティヴは、またもやハマースが政治的主体として統治する機会を破壊し、西洋の指導者たちは、愚かにも、あるいは悪意あって、これに共犯した。ガザの人々は、彼らをテロリストと見なすイスラエルの言説に還元され、今この瞬間にも続いている際限ない爆撃や絶え間ない攻撃を許している。


[翻訳:岡 真理]
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以上



■拡散歓迎■


京都の岡真理です。


本日3本目の投稿です。
アメリカのメディアが、パレスチナ/イスラエルについて、あなたに語らない9つのこと」、「ハマースを理解する」に続き、ラシード・ハーリディの「ガザの集団懲罰」をお送りします。


この間、いくつかのテクストをご紹介してきました。これらを読むだけでも、日本の主流メディアが、いかに事実を報道せず、むしろ歪め、隠蔽しているかということ、それによって私たちは、単に事実を知らされないだけでなく、問題の理解に関して、客観的な事実とはまったく逆の、イスラエルに都合の良い視座や「理解」を知らず知らずのうちに身につけさせられているのだ、ということが見えてきたのではないかと思います。


たとえば、昨日の「クローズアップ現代」では、ハマースは「イスラエル生存権を認めない」「イスラム原理主義組織」で、トンネルを掘って、イスラエルに侵入し、テロ攻撃を行っていると言われています。


イスラエルに侵入してハマースが行うのは、イスラエル兵の拉致など軍への攻撃です。ガザも西岸もイスラエルに占領されており、また難民の視点に立てば、イスラエルとなったパレスチナイスラエルに占領されており、占領軍に対する占領下の住民の武装闘争は正当な抵抗権とされるものです。これを「テロ」と呼ぶのは、明らかにイスラエル側に偏った見方です。


番組はまた、今回の攻撃に至る経緯を、西岸の3人のイスラエル人少年の誘拐を発端とすると語っていますが、それは、今回の軍事攻撃がパレスチナ統一政府をぶっ潰すために企図されたものであることを隠蔽する、イスラエル政府が作ったシナリオに忠実に則った説明です。


また、パレスチナ人の少年が報復で殺され、これら一連の出来事を受け、ハマースのロケット弾が大量に撃ち込まれるようになり、イスラエルの軍事攻撃が始まったと語り、ハマースが攻撃する前に、イスラエル側がガザに集中的な挑発的空爆があった事実については何も語りません。


封鎖については、若干、言及しているものの、ガザや西岸が今でもイスラエルの占領下にあるという事実については一言も語りません。上にも書いたように占領下の人々には、占領からの解放を求めて、武装闘争を含むあらゆる手段で闘う権利が認められています。ガザと西岸が占領されている以上、ハマースやその他の武装組織の武装闘争それ自体は、私たちがそれをどう思おうと、合法なのです。ある種の闘争手段(たとえば市街地での民間人を標的にした自爆攻撃など)が戦争犯罪であり違法である、批判されるべきであるとしても、占領軍に対する武装闘争それ自体はパレスチナ人の権利です。マンデラも、ANCの武装闘争の権利を最後まで放棄しませんでした。


ハマースに、彼らの正当な抵抗権である武装闘争を放棄させるのがイスラエルの狙いで、アメリカもEUもその方針に従っています。国際社会が、違法な占領自体を問題にしないで、占領者に対し占領の終結を求めずに、その反対に、被占領者に対して彼らの権利である武装闘争を放棄せよと迫るとしたら、私には倒錯した話に聞こえます。


さて、今回、ご紹介するラシード・ハーリディの「ガザの集団懲罰」について。
ハーリディは、コロンビア大学歴史学の教授です。1991-93年のマドリード・ワシントンで開かれたパレスチナ-イスラエル交渉でパレスチナ代表団顧問の一人です。


冒頭、著者は、ネタニヤフ首相が攻撃開始の3日後、国民に向けて語った、次のような発言を紹介しています。「イスラエル国民は、私がつねづね語っていることを今、理解していると思う。いかなる合意のもとであれ、われわれが、ヨルダン川の西の領土の安全保障の管理をあきらめる、などということはありえないということだ」


ヨルダン川の西の領土の安全保障の管理をあきらめる、などということはありえない」というのは、言い換えるなら、「1967年に占領したヨルダン川西岸地区パレスチナに返還することなどありえない」ということです。端的に言えば「西岸の占領を続ける」ということ。「いかなる合意のもとであれ」というのは、オスロ合意のことです。オスロ合意は、イスラエルは、1967年に占領した西岸とガザをパレスチナに返還し、パレスチナはここに国家を建設する、というものでした。


つまり、イスラエルは、西岸の占領を続ける、西岸に、ハマースが要求するような主権をもったパレスチナ国家の建設など絶対に認めない、という宣言です。
(主権をもたない国家は国家ではありません。オスロ合意で合意されたのは、当然、主権国家の建設です。)


ハマースが実質的には二国家案を受け入れ、長期にわたる停戦まで申し出ているにもかかわらず、イスラエルがハマースを敵視するのは、ハマースがパレスチナ人の民族自決、すなわち、主権をもったパレスチナ国家の建設という目標をあきらめていないからです。


分裂していては、国家樹立などできません。統一政府の発足は、民族自決に向けた第一歩でした。ハマースは統一政府の閣僚にハマースのメンバーを一人も入れませんでした。国際社会が推進している(はずの)二国家解決を、政治的・外交的努力によってハマースはなんとか実現しようとしています。そもそも、民族自決は当然の権利です。しかし、イスラエルパレスチナ国家の独立を、受け入れることができない、それゆえの攻撃、それゆえの殺戮です。

ガザの集団懲罰

http://www.newyorker.com/news/news-desk/collective-punishment-gaza


ラシード・ハーリディ
2014年7月29日


イスラエルベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ガザにおける今回の戦争を開始して3日後、テルアビブで記者会見を開き、「タイムズ・オブ・イスラエル」紙によれば、ヘブライ語で次のように語った。「イスラエル国民は、私がつねづね語っていることをいま、理解していると思う。つまり、いかなる合意のもとであれ、われわれが、ヨルダン川の西の領土の安全保障の管理をあきらめる、などということはありえないということだ。」


ネタニヤフがイスラエル国民に向かって話をするときは、注意して聞くとよい。今日、パレスチナで起きていることは、実際は、ハマースとは関係ない。[ハマースの]ロケット弾とも関係ない。「人間の楯」とも、テロリズムとも、トンネルとも関係ない。それは、パレスチナの領土とパレスチナ人の生命に対するイスラエルによる恒久的支配という問題なのだ。ネタニヤフが実際に語っているのはそのことであり、そして、ネタニヤフ自身、今、そのことを自分は「つねづね」語ってきたと認めているのだ。それは、パレスチナの自決と自由と主権を拒否するという、何十年にも及ぶイスラエルの不動の政策にかかわるものである。


イスラエルがガザで今、行っていることは、集団懲罰である。ガザが従順なゲットーになることをあくまでも拒否することに対する懲罰だ。[ハマースとファタハが和解し統一政府を創り]パレスチナ人が厚かましくも統一したことに対する懲罰であり、そして、ハマースやその他の党派が、イスラエルの封鎖や挑発に対し、非武装の抗議行動を何度もイスラエル軍に粉砕されたのち、武力やその他のやり方で抵抗することで応えたことに対する懲罰である。何年にもわたり停戦していたにもかかわらず、ガザの封鎖は解除されなかった。


しかし、ネタニヤフ自身の言葉が示しているように、イスラエルは、パレスチナ人が自分たちの従属に黙って従うこと以外は何も受け入れない。イスラエルが受け入れるのは、現実の国家の属性をすべて剥ぎ取られた、[名ばかりの]パレスチナ「国家」だけだ。すなわち、安全保障、国境、制空権、領海、[領土的]連続性についての支配権のない、すなわち主権をともなわない国家だ。23年間におよぶ「和平プロセス」という茶番劇は、これ[主権なき、名ばかりのパレスチナ国家]がイスラエルの提供するすべてだということを、そして、そのことをワシントンは全面的に認めているということを示している。この哀れな運命に対して(他のいずれの民族も抵抗するように)パレスチナ人が抵抗すると、イスラエルは、パレスチナ人の傲慢を罰するのだ。今に始まったことではない。


パレスチナ人が存在するということを罰することは、長い歴史がある。ハマースや、その不完全なロケット弾が、イスラエルを束の間驚かすブーギーマン[子供を脅かす想像上の怪物]となる以前、イスラエルがガザを野外監獄、パンチバッグ、兵器の実験場にする以前から、イスラエルがとっていた政策である。1948年、イスラエルは、住民の65%がアラブ人であった土地に、ユダヤ人がマジョリティを占める国家を創設するという名目で、何千人もの無辜の人々を殺し、何十万もの人々を恐怖に陥れ、彼らを追放した。1967年、イスラエルは、[東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区ガザ地区を]占領し、再び、何十万というパレスチナ人を追放した。これらの領土は、47年たっても依然、その大部分がイスラエルによって支配されている。


1982年、パレスチナ解放機構を[レバノンから]追放してパレスチナナショナリズムを消滅させるため、イスラエルレバノンに侵攻、17,000人を殺害、その大半が民間人だ。1980年代後半、占領下のパレスチナ人が立ち上がった。その主たる手段は投石とゼネストによるものだった。以来、イスラエルは何万人ものパレスチナ人を逮捕した。1967年以来、75万人以上もの人々がイスラエルの刑務所に投獄されている。今日の成人男性の40%にものぼる数字だ[日本の人口比に換算すれば、240万人に相当――訳者]。


投獄された人々は拷問について証言し、拷問の事実は、ベツェレム[B’tselem イスラエルの人権団体]などの人権団体によって確証されている。2000年に始まる第2次インティファーダでは、イスラエルは西岸(イスラエルは西岸を完全撤退してはいなかった)に再侵攻した。パレスチナの領土の占領と植民地化は1990年代の「和平プロセス」全体を通じて、弱まることなく続き、今日もなお続いているのである。しかし、アメリカにおける議論は、この決定的な、つねに抑圧的な文脈を無視し、代わりに、イスラエルの「自衛」と、パレスチナ人の苦しみはパレスチナ人自身に責任があるという議論にほぼ終始している。


この7年間、あるいはそれ以上、イスラエルは、ガザ地区を封鎖し、苦しめ、定期的に攻撃してきた。口実はその都度、違った。ハマースを選んだから、言うことをきかないから、イスラエルを承認しないから、ロケット弾を撃って来るから、トンネルをつくって封鎖を破っているから、云々。だが、いずれの口実も、人の気を逸らすおとりだ。なぜなら、ゲットーの真実とは――


180万の人間を360平方キロ、つまりニューヨーク・シティの3分の1の土地に閉じ込めて、国境管理もできず、漁師は海にほとんど出られず(オスロ合意で認められた20海里のうち3海里しか出漁できない)、ガザを出ることもガザに入ることも出来ず、昼も夜も無人機が上空で唸っていたら、何が起きるか。最後には、ゲットーはやり返すだろう。ソウェト[南アフリカ]でも、ベルファスト北アイルランド]でもそうだったように、ガザでもそうだ。ハマースや、ハマースのやり方は気に入らないとしても、だからと言って、パレスチナ人が自分たちの父祖の故郷で自由な人間として存在するという彼らの権利が否定されることを、パレスチナ人は四の五の言わずにすんなりと受け入れなければならないという前提を受け入れるということにはならないはずだ。


合衆国がイスラエルの現行の政策を支援することがなぜ、間違っているのか。北アイルランドでも、南アフリカでも、和平が実現した。なぜなら、合衆国や世界が、強者の側に圧力をかけなければならないと理解したからだ。強者の側の責任を問い、その不処罰をやめなければならないことを理解したからだ。


北アイルランド南アフリカは完璧な例にはほど遠いが、しかし、公正な結果を実現するには、合衆国が、ゲリラ戦をおこないテロにまで手を染めていたアイルランド共和国軍IRA)やアフリカ国民会議(ANC)のようなグループと交渉することが必要だった、ということは覚えていてよい。それが、平和と和解へ至るための唯一の道だった。パレスチナの場合も、根本的に違うというわけではない。


だが、そうする代わりに合衆国は、強者の側をえこ贔屓している。この、世界についてのシュールで、転倒したヴィジョンにおいては、まるでイスラエルパレスチナ人に占領されているかのようだ。事実はその真逆だというのに。この歪んだ宇宙観の中では、世界最新鋭の軍隊のひとつをもち、核武装した強国を監獄の囚人たちが包囲していることになる。


もし、私たちが、この非現実性から目を覚ましたいなら、合衆国はその政策を反転させるか、「誠実な仲介者」などという主張を捨て去らねばならない。合衆国政府がイスラエルに資金や武器を提供したいなら、理性と国際法に真っ向から逆らうイスラエルの論点を鸚鵡のように繰り返したいのなら、そうすればいい。だが、そうするのであれば、高い道徳的見地を主張したり、平和について厳かに語ったりすべきではない。今、ガザで死んでいるパレスチナ人やその子どもたちのことを気にかけているなどと言って、パレスチナ人を侮辱してはならない。


■ラシード・ハーリディ
コロンビア大学教授。アラブ研究。パレスチナ研究ジャーナル誌編集委員。1991-93年のマドリード・ワシントンで開かれたパレスチナ-イスラエル交渉のパレスチナ代表団顧問の一人。近著に『虚偽の仲介者たち』。


[翻訳:岡 真理]
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以上